30代女性の顎関節症の症状が変化した症例
はじめに
下記の症例は、病名や症状を改善する目的に行ったわけではなく、目的は筋骨格が左右対称にバランスよく機能させることです。その結果として報告します。
経緯
口がしっかり開かない、食事の時は何を食べても左顎が痛いなど、顎関節のトラブルで歯科医院に通院。
本人の了承を得て、2017年12月から舌コントロール療法(以下舌コン)を行う。
口腔内の状況
全て天然歯で、過去に歯科矯正なども行っていない。若干の叢生、オーバーバイト。
顎関節の関節運動
開口しようとすると、下顎が一旦右にシフトし右の下顎頭が外側に飛び出る。このことから左右の外側翼突筋下頭の筋機能の差があることが判断出来る。
開口時に左顎関節に強い痛みを感じる。開口量は1指半(約20mm)ぐらい。
閉口時もシフトしながら戻る。開口時ほどの痛みは出ないが違和感はある。
食事中の咀嚼がかなり辛い。特に固い物を噛むと痛くてすぐ飲み込んでしまうらしい。最近はその痛みがひどく、ご飯(白米)でも痛みを感じる時がある。
その他の症状
主訴は顎関節の痛みであり、本来であれば聞く必要がない。ただ、舌コンは体そのものを本来の状態に戻すことを目的にしているため、念のため他の症状を聞く。
肩こりと腰痛、膝が痛くて正座が出来ない。30代の若さで膝が痛く正座が出来ない事がやや心配。痛みが長期化し炎症が続けば、膝関節の変形を生み変形性膝関節症になる可能性もゼロではない。
四肢の他動運動検査
舌コン前に他動運動検査を行う。舌コン後にどのように変化したかを確認するため、患者の許可を取り動画で記録する。
※検査については改めて記述します。
膝関節検査
膝関節検査は右が左より屈曲制限があり、右の大腿四頭筋が左より過緊張していることが判断出来る。年齢的に考えても予想以上に膝関節の運動制限がある。
股関節検査
股関節検査は、左の外旋と伸展に強い運動制限があり、寛骨と大腿骨それに付着する筋肉が左右対称に機能していないことが分かる。分かりやすく言えば、下半身全体が右に向いていることになる。
肩関節検査
舌コンをする上で重要な肩関節検査は、右がしっかり屈曲出来るものの左は140度ぐらいで運動制限が起こる。この差は、屈曲筋である三角筋前面と伸展筋である広背筋の筋機能がアンバランスに機能している証拠であり、その結果鎖骨や脊柱、頭蓋にも影響を及ぼす。
模型分析
模型で左右の上顎第一大臼歯を比べると、左の方が頬側に倒れているのが確認出来た。先に行った肩関節検査でも、左肩関節は伸展優位であり、肩関節検査と模型の分析が合致したため、迷わず左上6番にレジンを貼る。
舌コンをする
舌コン(1回目)レジンを貼る
レジンの形状は記事に書いた通り、歯茎部は薄く切端部を厚めに、近心は薄く遠心を厚く貼る。
ドクターに、模型と口腔内を見てもらい、左右の上66の形態を見比べレジンの形状をイメージしてもらう。
舌コン後(1回目)、四肢の他動運動検査
3つの他動運動検査のうち、股関節検査以外は全て左右対称に運動した。股関節だけ若干の左右差があり、ドクターにリトライしてもらった。
ただこの時点で開口時の痛みは半減し、下顎のシフトする量も減った。開口量も増え、2指分(約30mm)は開くようになる。
舌コン(2回目)レジンを貼る
遠心切端部に少し厚めにレジンを足し、より舌が歯茎部に誘導出来るような角度をつける。レジンを足した後、しっかり研磨する。
舌コン後(2回目)、四肢の他動運動検査
再び3つの他動運動検査を行う。先ほどの左右対称に運動出来た膝関節検査、肩関節検査も再度行う。理由は、先ほどのレジン形態では良かったが、必ずしも今回が良いとは限らないからである。
3つの他動運動検査全て左右対称に運動出来るように改善した。これにより脊柱が安定、寛骨も大腿骨も、肩甲骨も頭蓋骨も安定したポジションに変化したことが分かる。
患者の筋骨格は左右対称になった
目的は達成した。あとは症状が変わってくれることを願うしかない。ただ解剖学的に体全体が左右対称に安定すれば、顎関節も左右対称に機能するはずである。
顎関節の状態
イスに座ってもらい、開口してもらった。まっすぐ左右対称に下顎が動き、1回目の舌コン後より明らかに開口量、開口スピードが変化した。全く痛くないらしい。閉口時も全く痛みがなくなり、とても喜んでもらえた。開口量は3指分(約50mm)まで増えた。
その他の症状
イスから立ってもらうと本人から「腰が痛くないし肩も楽」と症状の変化を教えてもらえた。
この時がお昼前で、同日の午後お子さん二人の診察で再び来院するという事なので、お昼ご飯を食べた時に顎の痛みを報告してもらうように依頼する。
3時間後の状態
お子さんを連れて来院。お昼ご飯を食べた時の感想を聞く。
「全く痛くなくて、嬉しくてイカの天ぷら食べてきました」と正座して報告してくれた。本人も自然に正座している自分にびっくりした様子。
その後
その後は約1ヶ月の1度、他動運動検査をして左右差が生じたら同じようにレジン調整を繰り返す。3回目までは1〜2ヶ月で四肢の検査に左右差が出てたが、最近は半年に1度チェックしても大きな左右差も出ず、体全体がバランスが良い状態が続いている。
症状も最初のうちは顎に少し痛みが出る時はあったが、ここ最近は全くの無症状で快適に過ごせているとの事。顎以外の症状もほぼ無く、心配していた膝も快調との事。
考察
今回は顎関節症の患者さんでしたが、顎関節も人間の関節の中の一つであり、体全体の一部分です。体全体が傾けば、四肢の動きも左右で違いが起き、同じく顎関節も左右で運動機能に差が生じます。筋骨格が中心軸に対し左右対称に機能すれば、四肢も顎関節も左右対称に機能します。
今回の患者さんは、重心は右にあり、脊柱は左に流れていました。肩は右が上がり頭部は左に回旋気味に傾いていました。しかしこの傾きは骨格が傾いているのではなく、骨格を支える筋機能の左右差が傾きの原因です。この筋肉の左右差を改善することが、体そのものを中心軸に機能させる唯一の方法だと思っています。
舌コンはこの四肢の運動左右差(他動運動検査)を一指標として、舌を支配する舌下神経が左右対称に機能すれば、舌や咀嚼筋の機能と下顎骨や頭蓋骨の傾きが改善し、結果四肢を含めた全身が変化できると考えています。
後記
私がドクターに舌コントロールという考えを伝え、臨床に取り入れて初期の患者さんです。四肢の他動運動検査の変化も症状の変化も早かったので、印象的な患者さんです。
私の治療院にもよく顎関節症の患者さんは来ますが、四肢のバランスを揃えば比較的改善します。舌コンも検査が揃えば問題はないとは思っていました。ただ、私の普段の施術より舌コンの方が早く変化し、さらにキープする力が何倍もある事に驚きを感じました。
今回は、顎関節症の患者さんの筋骨格を左右対称にした結果、主訴の顎関節症やその他の症状が改善しました。
今後書く予定の様々な症例は、全て患者さんの体そのものを本来の状態(筋骨格を左右対称に機能している)にするだけです。
よって、皆んな同じ目的で舌コンをします。症状別の舌コンは存在しません。